+++Live with me? 〜夜明け前〜 5+++
朝起きてきた幸の顔色に、幸村は思わず駆け寄った。
蒼白、とまでは行かなくとも普段の幸からは考えられないような状態であったからだ。
「幸、大丈夫か…?今日は休んだほうが…」
「平気でござるよ!兄上も急がねば遅くなりまするぞ」
それでも幸は明るく振る舞い、以前の量からすれば半分ほどになった朝食を平らげると変わりなく家を出た。
幸村は幸が出かける際にもう一度説得しようとしたが、伊達に引き止められた。
「止めておけ……無理だろう、あの様子では…。余計に頑なになるに決まっておるわ。……あの男…どういうつもりだ」
伊達は幸が起きるよりも先に家を出ていた政宗の様子を思い出し、怒りが沸いてくるようだった。
政宗と幸が別々の部屋に移って既に一月が経とうとしていた。
その間も幸は政宗のことを考えて毎夜眠れぬ夜を過ごし、その所為か、日々衰弱していく姿に幸村は胸を痛めていた。
幸と政宗が家の中で顔をあわせることも日に日に減っていき、今では校内で会う時間のほうが長いほどだった。
時折、家の中で二人が顔をあわせると途端に気まずい雰囲気が流れ、お互いに何も言わぬまま部屋に引き篭もるようになってしまっていた。
いつまでもこのままの状態が続くはずがないと幸村と伊達は思っていたが、その均衡は思わぬ形で崩された。
伊達が3時限目の授業を受けているときのことだった。
不意に隣の教室が騒然とし、何事だと耳を傾けていると慌しく体育教諭が駆け込んでいった。
流石に此処まで来ると伊達の教室内も騒がしくなり、伊達も立ち上がりはしなかったものの、その様子を窺っていた。
いや、普段ならば気にしなかったであろうが、騒然としていたそのクラスが幸のクラスだったことで、嫌な予感がして仕方がなかったのだ。
すぐに体育教諭が誰かを抱えて保健室へ向かうのを、伊達は見逃さなかった。
誰か、などすぐに検討がついた。
靡く赤みがかった長い髪。
(…幸…ッ?!)
伊達は思わず立ち上がり、教諭に名前を呼ばれなければその姿を追いかけて保健室まで行っていたことだろう。
何もない振りを装い席につきなおしたものの、その授業が終わるまで時間が流れの遅さに焦れていた。
「伊達先生。生徒が呼んでますよ、1−Aの伊達くん」
「…?…判りました」
担当の授業が終わり教材の整理をしていた政宗が呼び止められ、職員室の入口を振り返って見たものは険しい表情の伊達だった。
校内で声をかけてくることが滅多にないその姿を不思議そうに眺めながら、政宗は伊達に歩み寄った。
「……どうかしたのか」
「いいから来い、此処では話にならん」
有無を言わさず伊達が政宗を引き連れていった場所は保健室。
ちょうど保険医は席を外していたのか、それでも構わず伊達は奥へと向かっていき政宗をそれに従った。
訝しむ政宗を余所に伊達が閉じられていたカーテンを開けば、ベッドに横たわる幸が政宗の視界に飛び込んできた。
「…幸…?!」
「………貴様の所為ではないのか」
淡々と、だが政宗を責める様な口調で伊達が呟く。政宗はその言葉に何も言い返せなかった。
何も言えないままの政宗の横をすり抜け、伊達は出口の引き戸に手をかける。
そこで一旦足を止めると振り向きざま、俯いたままの政宗の背中に声をかけた。
「今日はもう早退させる手続きはしてある。……連れて帰ってやれ」
ぴしゃり、と閉じられたドアの向こうで去っていく足音が遠ざかると、其処には静寂だけになった。
血の気の失せた、安らかとは言いがたい表情で白いベッドに横たわるその姿は、伊達の言葉以上に政宗を責めた。
触れてもいいものか悩みながら政宗はゆっくりとその頬に手を伸ばした。
少しこけた頬を撫でると、ぴくりと瞼が震える。
「……幸村…」
掠れた声で呟かれた名前に反応するように、幸がゆっくりと目を開いた。
数回瞬きを繰り返したのち、ベッド際に佇む政宗に気付いたのか首を傾け、瞳にその姿を映す。
「……政宗、殿……。某は…」
「…授業中に倒れたそうだ、…貧血らしいな。今日はもう早退の手続きが済んでる。
……起きれそうなら、家に帰るぞ」
「…判り、申した…」
政宗は頬に触れていた手を引き、幸に背を向けた。
幸はその背中を見て、自分と政宗との間には酷く厚く高い壁が出来てしまったのだとまじまじと感じてしまい、胸の奥が掴まれるように痛んだ。
雨がまた、街を濡らし始めた。
前回の話と打って変わっての短さ(笑)。
ようやく山場に入ってきましたよ…!あと半分、くらいですかね?(誰に聞いてるんだ)
次回はまた…小十郎大活躍だと思います(^^;)
-04
+06
-menu