+++Live with me? 〜夜明け前〜 2+++
酷く重苦しい雰囲気が部屋中を取り巻いていた。
こんなにも思いつめた様子の政宗を見たことのない幸はどうしたらいいものか一向に解らず、政宗の隣で大人しくしているほかなかった
。
「私たちのところへ戻るつもりはないと、そういうことですか?」
「何度もそう言ってるだろう」
先程から延々と繰り返される同じ会話に、政宗もそろそろ痺れを切らしていた。
すっかり冷めてしまっている珈琲を飲み干し、半ば叩きつけるような勢いで机に戻すと、向かいで身を乗り出すようにしている小十郎に大仰にため息をついてみせた。
「……小十郎、俺はもうあの頃の俺じゃねぇ。それに俺がいなくてもなんとかなってんだろうが、現に。
だったらもう俺に構うな。…………忘れろ」
それだけ言うと政宗は席を立ち、部屋へと引っ込んでしまった。
「ま、政宗様…!」
唖然とする小十郎と、取り残され困惑する幸。静かに閉じられた扉をただ見送ることしか出来ずに、幸は何故かとても悲しくなった。
「…申し訳ありません。突然お邪魔して」
「あ……いえ…」
「機嫌を、損ねてしまいましたな。しかし……変わられませんな」
「……昔の独眼竜殿を、ご存知で?」
「え、あぁ………少しばかり…」
「そう、でござるか……」
いつの間にか自分の隣に立っていた小十郎に内心驚きながら、幸は先程までの政宗と小十郎のやり取りを思い出していた。
自分の知らない政宗を、この男は知っている。そう思うと無性に胸が苦しく幸は頭(かぶり)を振った。
「どうかなされましたか?」
「え、あ、いえ…。何でもござらぬ…」
「そうですか。……では、私はこれで。あぁ、一応これを政宗様に」
帰りかけた小十郎が玄関先で突然立ち止まり踵を返す。差し出された小さなものに目を落とすと、一枚の名刺だった。
「……片倉、小十郎殿、ですか」
「何かあればご連絡下さいとお伝え願いますか。…受け取ってくださらないかもしれませんが」
それでは、と深く頭を下げ辞していった小十郎を幸は複雑な気分で見送った。
突然開けて良いものか迷った挙句、幸は政宗の部屋のドアをノックする。
幸がこの部屋に入るのにノックなどしたことはこれまでただの一度もなかった。
「……独眼竜殿、入っても宜しいか?」
返事がなければ諦めようと、幸はドアに手を添えて応え(いらえ)を待った。
かちゃり、と静かな音を立ててドアノブが回り、政宗が顔を見せた。
その表情は普段と変わりなくて、それが余計に幸を不安にさせた。
「どうした、幸?」
「あ……いえ、特に何があったわけでも、ござらんのですが…」
「なんだそりゃ、まあいい。come on」
さり気に幸の肩を抱くその手も、浮かべる笑みも何ら変わりはないのに幸の不安だけが募る。
幸をベッドに座らせ、政宗は仕事用に設えてあるデスクに腰掛けると椅子を軋ませて幸を振り返る。
「片付ける仕事があるからあんまり構えねぇぞ?」
「か、かまって欲しいわけではござらぬ…っ」
からかいに顔を染める幸の髪をひと撫でし、政宗は背を向けた。
その背を幸はじっと見詰める。
訊いてはいけないのだろうかと、自分が好きな人のことを知りたいと思うのは、いけない事なのだろうかと考えながら。
「………片倉殿は、昔の知り合いでござるか?」
小さな声でも静まり返った部屋の中では十分に届いた。
その証拠に政宗の肩はぴくりと跳ねた。しかし政宗は振り返りもしなければ、返事もなかった。
「…独眼竜殿…その、今朝の……」
「小十郎は」
突然話し出した政宗に幸は思わず身を強張らせた。それでも話を途切れさせてはいけないと、黙って続きを待った。
「小十郎は、留学する前から世話になってた。向こうへ渡ってからもしばらく一緒だった。……それだけだ」
それ以上は訊くなとばかりに口を閉ざした政宗に、幸は何も言うことが出来なかった。
ど、どんどん暗さが増していく…!(笑)
そして小十郎登場なのですが、この先どんどんといいとこ取りです、このお方。
あ、別にこじゅまさでもまさこじゅでもないです、うん(笑)。
れっきとしたダテサナですので、これ!
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