その奥に隠したのは只の傷にあらず。
重苦しく圧し掛かるあの時の全てを、失くしたモノと共に押し込んだ。
……いつか、暴かれるものだとわかっていて。
+++Live with me? 〜夜明け前〜 1+++
「某、以前から気になっておったのですが…、独眼竜殿は何ゆえ眼帯をされてるのですか?」
幸が朝食の席で発した言葉に、政宗は自分でも知らぬうちに身を強張らせた。
しかし動揺を気取られぬように、政宗は向かいで好奇心に目を輝かせる幸を見やった。
「…what?…なんでそんなことを、急に聞く?」
「いえ、以前伊達殿のお話は伺ったのですが、独眼竜殿のお話は聞いたことがござらんかったので」
政宗が纏いだした、常にない冷淡な雰囲気に不穏なものを感じる幸村と伊達を尻目に、幸は延々と言葉を並べ続ける。
「伊達殿と同じようにやはり事故でござるか?それとも他の……」
「…幸!早う食事を済ませんか。また遅刻しても知らぬぞ!!」
突然がたん!と荒々しく席を立った伊達に、はっと目をやったのは呼ばれた当人ではなく隣に座っていた幸村だった。
さりげなく促すように幸の空いたコップに飲み物を注いでやりながら、幸村は政宗の表情を横目で探った。
――なんて、苦々しい表情なのか。
あからさまに痛いところを突かれたという表情を隠しもしない。
幸村は眉を顰め、ややこしい事にならなければいいと願った。
「幸。ほら、また置いていかれるのは困るでしょうから…」
「そうでござるな!独眼竜殿、また教えてくだされ!」
「……Ah…、いつか、な…」
慌しく目の前の食事を押し込み席を立った幸を見送ることもせず、政宗は遠くを見つめていた……。
こんこん、とカウンターを叩く音に思案に耽っていた幸村は慌てて我に返り振り向いた。
政宗がカウンターに凭れかかり、バイクのキーを玩んでいた。
「hey、幸村。俺はもう出るぞ。あと頼む」
「あ…、あの、伊達様…。幸はたぶん悪気があってでは……」
さっきの騒動―というには些細な事だったが―を思い出し幸村は切り出したが、次の句を告ぐ前に政宗の手がそれを押し留めた。
暗い闇を湛えた左目が、幸村を射抜く。
「stop、それ以上は言うな。…これは俺自身の問題だ」
幸村は言いかけた言の葉を飲み込んで、踵を返し玄関を出て行く政宗を見送りかけ、慌ててその腕をつかむ。
「……伊達様…、幸にはいつか、いつか本当に……」
「………さあな」
出て行き際に掠れそうな声で幸村が呟いた囁きに、政宗は悲しげに目を細めた。
部活を終えた幸が、政宗が仕事を終えるのを待ち共に家路に向かう、いつもと何ら変わりのない帰り道。
タンデムシートに乗り込み、何も疑うことなく自分に腕を回してくる幸を乗せながら、政宗は今朝の苦々しい気分を消せずにいた。
「幸、少し寄ってくから待っててくれるか、すぐ済ませる」
「判り申した、気を使わないで下され」
幸はコンビニに入っていった政宗をバイクの側で待ちながら、店内を歩くその姿を目で追いかけていた。
遠目からでも目を引くその姿に、幸は知らず笑みを浮かべていた。
そんな幸の背後で靴音が高らかに鳴り、幸は意識をそちらへ向けた。
ゆっくりと歩み寄ってくるその姿に、幸は誰かに似た雰囲気を感じ取っていた。
その男は幸の前で立ち止まると胸元から一枚の紙切れを取り出して指し示した。
「あの、少々お伺いしたいのですが」
「なんでござるか?」
「この住所はどちらに…」
けして柔和そうに見えない、寧ろ厳しいその佇まいにもまったく怯むことなく、幸は自然に振舞う。
すっと差し出された紙切れに目を落としたその時。
「…小十郎……?」
「……ま、さむね、さま…?」
買い物を済ませ戻ってきた政宗が思わず袋を取り落とした。
信じられないという気持ちがありありと浮かんだ表情で、相手を凝視し続けている。
それは小十郎と呼ばれた男のほうも同様だった。
だがこちらはどちらかと言えば安堵の表情を浮かべ、会えたことをあからさまに喜んでいるようだった。
政宗に歩み寄ると両肩を掴み、存在を確かめるかのようにその姿をじっくりと眺めた。
しかし政宗はその手を邪険に振り払うと、小十郎の横をすり抜けバイクに近付く。
その表情は長い髪に隠されて、幸には察することが出来なかったが紡がれる言葉の端々に辛さが見え隠れしていた。
「なんで、てめぇが此処にいやがる……」
「お探し致しました…!帰国した後、頂いていた住所へ訪ねても引っ越された後で行方が知れず、私がどれほど探したとお思いですか!」
「wait!!小十郎、お前どういうつもりで此処へ来た…?!」
よもや縋りつくのでは、というほどの勢いの小十郎を押し留めるように政宗は振り向き、指を突きつける。
小十郎も足を止め、少し怯んだのか半歩ばかり退いた。
「どういう、と申されましても。もちろん以前のように…」
その言葉に首を振ると政宗は小さくため息をついた。
小十郎の車を指差し乗るように促すと、自分もバイクに跨りメットを手にする。
「わかった。……此処で話すことじゃねえだろ…とりあえずうちに来い。幸、帰るぞ」
「…?……わかりもうした…」
蚊帳の外に出されていた幸は、まったく話の見えないまま政宗に促されバイクに跨った。
初のBASARAダテサナ現代版です。
中身いきなり暗いです、すいません(笑)。
でも最後は甘くなる予定なのでお付き合いくださいまし!
しかしまあ、巧くまとめきれてない感じが溢れまくってますね、これ……(^^;)
設定時間軸的には公開している現代版設定より一年遡ってます。
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