+++Live with me? 〜夜明け前〜 Epilogue+++
カーテンの隙間から差し込む光が部屋を明るく照らしていた。
もそり、と寝返りを打とうとして身動きがとれず、不思議に思いながら幸はゆっくりと瞼を上げていった。
開いた視界の前は一面が白かった。穏やかに上下するそれにそっと手を伸ばした。
触れたそれは幸の掌に、優しく温もりを伝えてきた。
温かな政宗の腕の中だということにそこで漸く気が付き、自然と顔が綻んだ。
おずおずとその広い胸に身を寄せると、耳をひたりとつけた。
穏やかなリズムを刻む鼓動。その音に幸はほぅ、と安堵の息を吐く。
「……ん………」
洩れ聴こえた声に、はっと幸が顔を上げる。
意外にも長い睫の奥の瞳が少しずつ開かれ、自分の姿を映していくのを幸はじっと見つめていた。
金色の光彩が散った綺麗な瞳が、幸の姿を映し出した。
「……幸………?」
掠れた声が幸の耳に届き、ほわりと笑みを浮かべて幸は政宗の胸に寄り添った。
政宗も幸の姿を確かめるように回していた腕に力を込めた。
熱がじわりと伝わる感覚に、お互い知らぬうちに溜息が零れた。
「………俺の、側にいるんだな…幸…」
「…はい、政宗殿…ここに、おりまする…」
幸の囁きに政宗の背中に回した腕がきゅっとシャツの布地を掴んだ。
「…………ぅ…った…」
掻き消えそうな政宗の呟きは、幸の耳にだけに届いた。
「某、もうなんともないでござる…」
不服そうに呟き、起き上がりかけた幸の肩を政宗はやんわりと押し留め、再び横にならせた。
「だめだ、今日一日はおとなしくしてろ……あんなに、弱ってると思わなかったんだ…」
「しかし、もうたっぷりと寝たでござるよ」
「いいから、寝てろって…。長い話も、しなきゃいけねえしな」
「あ……」
はっとした幸の頭をベッドの端に腰掛けた政宗が微笑みながらくしゃり、と撫でた。
幸はおとなしく枕に頭を埋めると、ちらと視線を向けた。
「小十郎がどこまで話したかわからねぇが…」
そう前置いて政宗はぽつりぽつりと語り始めた。
「中学を出てすぐにアメリカに留学する話が決まってた。
元々こっちの学校に興味は無かったからな、ちょうど良かったんだ。
小十郎とあと数人だけを付けられて、向こうにすぐ飛んだ。
あっちの生活は楽しかったな。……家の中は、居心地がいいとは言えなかったからな…」
寂しげに呟いたその様子に、幸はきゅっと眉根を寄せて、上掛けの上で握られている政宗の手にそっと触れた。
触れてきた手に視線を落とすと、政宗は顔を綻ばせ優しく握りこんだ。
「向こうの学校に入って、本当に勝手気侭、奔放に過ごしてたな。
小十郎が小言を言ってもきかねぇで、毎日いろんなとこで屯って。
気が付きゃ俺の周りにはたくさんの人が集まってた…。
俺が気に食わない奴も含めて、な。
あれはちょうど…18の誕生日だな。
祝ってやる、なんて言われて行きつけのクラブに呼ばれて出て行く途中だった。
時間に遅れそうだったから普段通らない、路地裏に入り込む前に突然呼び止められた。
………そのまま気付かずに走り去ってれば巻き込むことも無かったんだ…」
政宗は深い溜息をつくと、思い出すかのように瞼を閉じる。
このとき、政宗は話すことが正直辛かった。思い出すことさえ封じていた記憶。
それでも話を続けようとしたのは、自分が背負っているものをせめて幸には知っていて欲しかったからだった。
繋いでいた手に少し力を込めると、伏せていた目を開きまたぽつぽつと話し始める。
「俺がまだ小さいときに親が決めた、許嫁がいてな。
名前は愛(めぐ)。…あまり会っては無かったんだが、向こうは覚えてたらしくてな。
俺も嫌いじゃなかったから、少しならと思って立ち話をした。…それが、最悪の選択だった。
……気が付かなかった、俺が悪かったんだ。愛の背後に立ちはだかった影に気が付いたときには遅かった。
俺は大して気にしてなかったんだが、俺を嫌ってるグループがいてな…。
そいつ等が自分の縄張りを主張するような、そんないざこざが起きてた。
歯牙にもかけないでいたのが気に食わなかったんだろ。…たまたま俺と話をしていた愛を、巻き込んだんだ」
ぎり、と歯を噛み締める音が幸の耳に届いた。手の力も少しずつ強くなっていて、宥めるように幸はその手をなでた。
「一方的に殴られ続けて、騒動に気が付いた仲間が来た頃には、乱戦なんていうもんじゃねえ。
敵味方なんざさっぱり判らなくなってた。
そんな中で、向こうの頭が……撃ったんだ。
一発は俺の目を掠めて、その後、遅れて。
走った、走ったんだ。
あとほんの数歩だったんだ。
なのに、間に合わなかった。
何が起こったのかわからない顔で、ゆっくりと倒れこんだ。
周りの奴等も、思わず動きを止めた。
駆け寄った俺を、皆が遠巻きに見てた。
痛みをこらえながら、抱き寄せて声をかけた。
俺の顔を見て、気丈にも笑って手を伸ばして頬に触れたんだ…。
心配そうな顔して……俺よりも、アイツのほうが酷かったのに…笑って……ッ」
それ以上、政宗は何も言えなかった。
口を開けばきっと泣いてしまう。ぐっと堪えて俯くのが精一杯だった。
幸は身を起こし、少し狼狽しがちに政宗を見つめると、政宗の肩にそっと手を伸ばした。
触れる寸前に戸惑うように止まった指が、そっと肩先に触れる。
「政宗殿…」
ゆっくりと顔をあげる政宗に、幸がゆっくりと言葉を選びながら口にする。
「某では、何の支えにもならぬかもしれませぬ、…ですが、その痛みを、某にも半分、背負わせてくださいませぬか…?」
「俺の、痛み……?」
「政宗殿がそのようにお辛そうな顔をされるのを、某は見とうござりませぬ…。ですから…」
話すうちに、いつの間にか幸の瞳は涙に濡れていた。溢れて零れ落ちる涙を政宗の指が拭う。
「誰にも肩代わりできるようなことではないとわかっておりまする。それでも、それでも某は、政宗殿が笑うお顔が、幸せそうなお顔が見とうございます…!」
「俺の、痛みを幸が……?…いいのか、これからずっとだぞ…?」
「構いませぬ。…お側にずっと、これからもずっとおりまする…。政宗殿がそれをお許しくださるのであれば…」
それ以上、言葉は無かった。
政宗は幸村の腕を掴み、引き寄せると抱きしめた。
幸村は応えるように腕を背中に回し、そっと頬を擦り寄せた。
触れ合った温もりに、ほぅとお互いが知らずに溜息を吐く。
示し合わせたように見合わせた二人は、優しく微笑みあい、唇を寄せた。
…終わったー!
というのが、一番似合う感想かと。
コレを書かないと後が続かない!というのと、早く甘い二人が見たい!という
自分への強迫観念(?)に苛まれつつ、小十郎の怖さに怯えたりしたお話でした。
現代版でしかもダテサナ二組なんていう奇妙な話でしたが、読んでいただいて、楽しんでいただけたら幸いです。
よろしければぽちっとなと…押してくださると小躍りします(笑)
次の話は明るい軽いネタで!(笑)
BGM:
「ALBUM:D.」 Des-Row
『ワルツ』 スネオヘアー
-09
-menu