障子は表の明りをぼんやりと通し、部屋の中をぼんやりと浮かび上がらせている。
ぴちゃり、と濡れた音が上がる。
息を継ぐのすら惜しみながら、部屋の中央に敷かれたままの床の上で、口付けを交わす二人。
漸く解き放たれた記憶が、幸村だけでなく政宗の心すら浮き足立たせていた。


+++今再び、君と『逢ふ』+++


「ん、…ふ、ぁ…あ…」
幸村のか細い声が上がる。呼吸もままならぬまま口付けを繰り返され、息絶え絶えに政宗の背中に縋る。
ぐっと布地を掴まれる感触に政宗は漸く唇を離すが、その唇はそのまま頬の線を辿り、首筋へ滑り落ちていく。
ゆるゆると柔らかな肌を濡れた唇が触れる感覚に、幸村は頭の芯がぼんやりとまるで熱で溶かされるような気分になっていくのを感じた。
そして、いつになく政宗の性急さを感じ取り、少し不可解にも思った。
己が記憶を失って今日に至るまで、相当の長い時がかかっているはずで。
その間、政宗は己に触れなかったというのなら。
幸村は考え付いたそのことに、……心が、震えた。
怯えなどではなく、歓びに。
政宗が己のことをどれだけ好いていると訴えてくれても、幸村はどこか信じられない思いでいた。
しかし、今、己が置かれている状況から察するだけでも、政宗が相当に気を配ってくれたことが見受けられた。
たったそれだけでも、幸村は歓喜が身の内から溢れそうだった。
ゆっくりと、政宗の背に両の腕を回し幸村は身を寄せる。
そのことに気付いた政宗が一瞬息を呑んだようだったが、直ぐに目を細めると幸村の衿元を寛げ鎖骨の際をきつく吸い上げた。
白い肌に紅く散った花弁のように、鮮やかに残る痕。それを満足げに眺めてから、政宗は幸村の帯に手をかけた。
幸村が体を強張らせるが、その緊張も直ぐに解け己から身を浮かせて政宗の手を助けるほどで。
しゅるりという音が静かな部屋に響いた。


政宗は自分を押さえつけるのに必死だった。
どれだけの間、己が幸村に触れることを禁じていたか。その禁が解かれた今、正直に言えば理性など欠片ほどしか残っていなかった。
身体を開かれるのが久方ぶりの幸村を案じて抑えながら、とわかってはいても身体は性急に幸村を求めて動く。
先刻の口付けでさえ、幸村が己の背に縋ってきて漸く我に返ったほどだった。
幸村の両の腕がゆうるりと己の背中に回されたときなど、気遣いなど忘れて貪り喰らってしまうかと、思った。
それをぐっと押さえ込み目を眇めて幸村を見下ろせば、…怯えなど欠片ほどもない、柔らかな笑みにぶつかった。
……愛しいと、己の全てが訴えていた。
白磁のように滑らかな頬へ、首筋へ、胸元へ。所有の証を刻み付けて。
もう一度、『幸村』が己の下に還ってきたそのことを、自らに叩き込むように。
その姿を己の瞳に焼き込むように、幸村が身に纏っていた単を取り払えば、……気が狂うほどに、欲が、深まった。


露にされた己の身を若干隠すように身を捩る幸村の肩を軽く押さえつけ、政宗はくっきりと浮かび上がった鎖骨に歯を立てた。
「…っ、ぁ…」
くぅっと喉を反らせ、幸村が声を上げる。
政宗はその様を眺めながら、唇を下へと滑らせて胸の尖りへ舌を這わせた。
「ぁ…っ!」
びく、と身体を軽く震わせ幸村が敷布に指を絡めた。少しずつ堅さを増すそれを政宗は舌先で刺激し続ける。
確りと立ち上がったそれから漸く唇を離し、ぎゅっと指で押し潰せば、幸村は頭を振りすすり泣くような声を上げた。
口元が緩んでいることにも気づかぬまま、政宗はもう片方の尖りに口を寄せる。
敏感な箇所を両方とも弄られ、幸村は既に息が上がってきていた。
「…ん、ふ…ぁあ…っ」
幸村の反応に満足し、政宗は口でそれを弄りながら下肢へと手を伸ばす。
するすると内腿を撫で上げられて、幸村は思わず両の足を擦り合わせ、ようとしてそれを政宗の腕が阻んだ。
「……幸村…」
名を呼ばれる、それだけで身体の力が抜けていき、幸村は政宗の為すがままだった。
両の足の間に政宗の膝が割り込まれ、下帯に政宗の指がかかったときは流石に少しだけ抵抗を見せた。
しかしそんな些細な抵抗など、今の政宗には抵抗にすら値せず。
一気に幸村の下肢から布を取り去ると、既に反応を見せている幸村自身に触れた。
「あぁ…ッ!」
触れられただけで零れた蜜が幹を伝い濡らしてゆく。
政宗はふるりと震えるそれを包み込むように手の内に収め、ゆるりと扱きたてる。
「や…、ぁ、あ…っ、う…ぅく…んッ」
幸村は身を捩じらせ、政宗の手が与える快楽に耐えていた。それでも、長い間触れられなかった体は許容量を軽く超え。
「ぁあ…ぁ…ッ!」
くっと強く根元から扱き上げられれば、幸村は耐えることなどできず、二、三度身体を大きく震わせて政宗の手に白い蜜を吐き出した。

とぷりと零れたそれを舐めとり、政宗は幸村の顔を覗き込んだ。
「…そんなに、善かったか?」
その言葉に幸村はかぁっと顔を赤らめた。思わず両手で顔を覆い、
「……し、しりません…っ」
と掻き消えそうな声で訴えれば、政宗はくっと笑い幸村の片足を持ち上げた。
「気にするな。儂とて、わからん」
政宗の呟きが聞き取れなかったのか、幸村が怪訝そうな顔を浮かべるその前に濡れた指が双丘の奥へ滑り込んできて、幸村は思わず身を竦めた。
「力を抜かんと辛いぞ。十分に慣らしてはやるがな」
「え、あ…っ、ま、まさ、む…ねさま…っ?」
ぐりぐりと入口を指の腹で弄くられて、幸村は背を仰け反らせる。
幾ら濡れているとはいえ、長い間触れられなかったそこは頑なに口を閉ざしていた。
政宗はふむ、と一息つくと幸村の両の足を持ち上げ、身体が折れそうなほど押し付けた。
「な……、や、…やめ、てくださ…っ、ま、さむね、さま…ぁッ!」
固い蕾に政宗の舌が触れる。ぴちゃり、くちゅりと濡れた音が静かな部屋に響き幸村の羞恥を更に煽った。
「ぃ…や、…ぁう…んんっ」
政宗を引き剥がそうと頭に手をかけるが、力などとうに入らず、髪に指を絡めるばかりで。 その間も政宗の愛撫は深くなっていく。
しとどに濡れた蕾につぷ、と政宗の指が埋め込まれる。
やわやわと内壁を擦りながら、奥を苛んでゆくものに幸村は今にも意識を飛ばしてしまいそうだった。
「ひぁぁ…ッ!!」
突然訪れた激しい悦楽に、甲高い嬌声をあげ、幸村が身体を震わせる。
ぐいっと凝りを指で擦り上げられるたびに、例えようのない快感が幸村の腰から脳天にかけて突き抜けてゆく。
「あぁ…ッ、もぅ、だ…あ、あぁ、ひぃ…ッ!!」
政宗の指を食いちぎらんばかりに締め付け、幸村が再び吐精する。
胸元にまで飛んだ幸村の蜜を舐めとり、政宗は身に付けていた着物を取り払った。
「ぁ……」
政宗のいきり立ったモノを目にして幸村は思わず息を飲んだ。
受け入れたことがないわけではない。しかし今の身体で、きちんと受け止めきれるのか。
不安が浮かんだ幸村の額に政宗は掠めるように口付けた。
「やめておくか?」
目を覗き込まれるように言われて、幸村は心を覗き込まれているような気分だった。
「……いいえ…。政宗様が……」
語尾は口付けに吸われて消えた。

「力を抜いていろ。……手加減は、できんかもしれん」
幸村の両の足を肩に担ぎ上げ、己のものを幸村の蕾に押し当てながら、政宗が零す。
それに幸村は緩く頭を振り、
「大丈夫です…」
気丈に笑って見せるその表情に、政宗は残っていた理性の欠片が飛んでいくのを感じた。
ぐっと先端を押し付け、一気に腰を突き入れた。
「ぁあ…っ!」
幾ら慣らされていたとはいえ、久方ぶりの挿入に、幸村の身体が堅くなる。
「…幸村…」
しかし今更辞めることなど、政宗には到底無理だった。
きつい締め付けを潜りながら根元まで捻り込むとふっと一息つき、目を伏せ眉根を寄せる幸村の頬に触れる。
うっすらと目を開いた幸村に口付けて、政宗はゆっくりと己を引き抜きにかかった。
「ぅ…ん、んんっ、…あ、あう…!」
「く…っ、きつ、いな…儂のが、そんなに欲しかったか…?」
からかうような政宗の言葉に、幸村は嫌々をするように頭を振る。
「嫌というほど、溢れるほどに、叩き込んでやろう…っ」
「や、あぁ……っ!…ぁさ、むね、さ…ぁあ…んっ!」
ぎりぎりまで引き抜いては、一気に最奥まで押し込むような、激しい律動に幸村は翻弄された。
汗で滑る手で幸村は政宗に必死で縋り、政宗もまた幸村を強く掻き抱いた。
内側から政宗の熱塊で扇ぎたてられ、互いの腹で幸村自身が擦りたてられ、幸村は目の前が白く霞むのを感じた。
「ひ…ぃ、あ、あぁ…っ」
「ゆ、…きむ、ら…ッ」
一際深く奥を抉られ、幸村はきゅうっと政宗自身を締め付けると白濁とした蜜を弾けさせて、気をやった。
政宗もその締め付けにたまらず呻くと、最奥へと欲を叩きつけた。


くたり、と身動き一つとれず幸村は横たわる。
覆いかぶさるようにしていた政宗がその横へ転がった、と思いきや。
するりと下肢へ再び伸びてきた手に、達したばかりの幸村の身体が震えた。
「ま、まさむね、さま…?」
「…足りん」
ぐっと押し付けられた熱の正体に、かぁっと首まで赤面する幸村。
それに構わず政宗は濡れたままの奥を弄り、身体に力の入らない幸村をうつ伏せた。
「もっと、いい声で啼かせてやる」
「や…、政宗様…っ、あ…」



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