朝雲暮雨
ぱさり、と幸村の髪が布団に広がり音を立てる。
唐突に布団に体を横たえられ、その上に賺さず政宗が覆いかぶさってくると、土壇場になって幸村は焦った。
まだ、気持ちが固まっていない。
手を取ったのは自分だ。しかしあまりのことに混乱しすぎていて、もう少し余裕が欲しかった。
覚悟を決めたとはいえ、全てを政宗の目に晒されるには…羞恥が勝っていて。
「ま、政宗様…、あの、灯りを…っ!」
「消しては見えんだろうが」
幸村は事を押し進めようとする政宗の胸を押した。
しかし政宗は一向に退く気配を見せず、幸村の袂を寛げてゆく。
「しかしですね…っ」
「五月蝿い、泣き言も恨み言も聴かんといった」
政宗は幸村の首筋に一度掠めるように口付けると、ちろりと舐め上げその後をきつく吸い上げた。
薄明かりでもはっきりと浮かび上がる、白雪の上に散った花弁のような、紅。
その刺すような刺激に、幸村は体を跳ねさせ政宗の肩を掴んだ。
「まさ…っ!」
「……貴様、初めてではなかろうな?」
余りに初心な反応に政宗はつい、そんなことを口にする。
いや、幸村ならばありえると、思っていたのかもしれない。
「………あ、あまり、慣れては、いませんが…っ、何か不都合でも?!」
その問いに顔どころか耳や首筋まで真っ赤にして答える幸村に、政宗は一瞬呆け、
「…くっ、はははは!そんなに強がるな。…儂のしたいように出来て都合がいい」
大きな笑い声を上げたと思えば、瞬時にその顔を幸村の見たことのない、『大人の男』の顔で幸村を見つめた。
「な…っ、政宗様!」
その表情に幸村は思わず息を呑み…見惚れた。
けれど直ぐに伸びてきた政宗の手から与えられる感覚に、頭の底が痺れるような気分を覚えた。
「ふん、もうそろそろおとなしくしろ」
そう言い捨て、政宗は幸村の夜着の帯を解く。
その手馴れた手つきに幸村は慌てて襟元を掻き合わせようとしたが、それよりも早く政宗の手がそれを押さえた。
首筋から少しずつ降りてゆく政宗の指先、そして唇に、体の熱がじわじわと煽られていると、
幸村はぼんやりとし始めた頭で考えた。
「え、あ……っ!」
「…思ったより、色白だな」
するり、と脇腹を撫でられたときに呟かれた政宗の一言に、少しだけ我を取り戻して幸村が答える。
そんなにじっくりと見ないで欲しい、視線ですら、自分をどうにかしてしまいそうだった。
「え、あ…ふ、普段は…見えませんし…」
「元が白いということだろう」
いつの間にか下帯が解かれ、幸村の全てが暴かれる。
ちくん、と疼くような痛みに幸村が思わず顔を上げれば、腿の付け根に顔を埋める政宗の姿。
驚きに体を跳ねさせても思いもよらぬほどの力で押さえ付けられ、幸村にはどうすることも出来なかった。
「政宗様……?…ぁ…っ!」
自分でも情けないと思うほど、幸村の声は掠れていた。
それは、…恐怖ゆえか、それとも、期待にか。
徐に幸村自身に政宗の指が触れ、形をなぞるようにその指が動く。
「慣れてないなら、慣れさせてやろう。…だが、儂以外には触れさせるな」
「……と、当然で、す…っ!」
指が絡み、幸村を煽る。
蜜が滴り落ち、幸村の肌が、桜色に染め上がる。
その姿を満足げに、政宗は見下ろしていた。
政宗は、幸村を手に入れるつもりではいた。
だが、事を急くことはないと、どこかで考えてもいた。
……それは、確信ではないものの、どこかで感じ取っていたのかもしれない。
己と、幸村。
その間にある心が、同じであることに。
しかしこうして今、己の腕の中に幸村がいる事実を思うと、貪欲に求めている己がいて少々、驚いてもいた。
まだ、足りぬ。
そう呟く己が、確かにいる。
…幸村、貴様は……。
政宗はそんなことをつらつらと考えながら、少しずつ少しずつ、幸村を追い上げていく。
「…ん…っ、はぁ、…く…ぅん!」
敷布を掴み、歯を食いしばって身悶える幸村の姿に、政宗も知らず知らず吐息が荒くなっていた。
くちゅり、としとどに濡れた幸村自身を掌で扱きながら、既に堅くその存在を主張している胸の突起を口に含む。
それだけで幸村は頭を振り、政宗の背に縋りついた。
「ま、さ…ぅ、ねさ…っ、もぅ…っ!」
「……幸村…」
目元を紅に染め、涙さえ浮かべている幸村の耳元で政宗は小さくその名を呼び、耳朶に噛み付いた。
それと同時に一際強く幸村自身を扱き上げれば、幸村はその身を震わせて政宗の手の中で果てた。
政宗は身を離すと、未だに小刻みに体を震わせている幸村の体をうつ伏せる。
幸村が我に帰る間を与えず、政宗は幸村の白濁とした蜜で濡れた指を双丘の狭間へ滑らせた。
「ひ…っ!」
思ってもみなかったところへの接触に、幸村が体を強張らせる。
それでも政宗は手を止めることなく、そこへ潤いを塗り込めてゆく。
「い、…っ、まさ、む、ね…さま…っ、ぁ」
泣き言は聴かぬと言われていても、このようなことになっては幸村が政宗に縋りたいと思うのは、無理がなかった。
それでも必死でそれをやり過ごそうと、布団に顔を埋め上がる声を押し殺す。
政宗はその姿にちらりと視線を投げて、少し眉根を寄せたが直ぐにまた幸村の内へと指を埋める。
少しずつ侵入しては幸村を苛むその指だったが、不意にある場所を政宗の指が掠め、そのしなやかな背を跳ねさせた。
「…っ、あ、な…あぅ…っ!」
政宗は執拗にそこを攻め、その度に幸村は嬌声を上げては身を震わせた。
「…感じているのか、幸村」
政宗の突然の囁きと、触れられた己自身が再び昂ぶっていたことに幸村は驚いた。
「…そ、んな…こ、と……、く…ぅ、んんっ」
「頃合か」
政宗は幸村の内から指を引き抜くと、自分も身につけていたものを全て取り去り、
幸村の腰を高く抱え上げて綻んだ蕾へ己自身を押し当てた。
「…っ」
幸村がその熱さと大きさに息を呑んだのが分かり、政宗は幸村の背に口付ける。
「力を抜かんと、体を痛めるぞ」
幾度か口付けているうちに、体の力が抜けたのを感じて政宗は一気に己を押し込んだ。
「…っ、ひ…ぃ、…ぁ!」
想像以上の締め付けに政宗は顔を顰め、幸村は痛みに眦から涙を零す。
「…幸村、幸村、息を吐け」
その言葉を微かに聞き取り、幸村はなかなか上手く出来ない息を必死で整える。
少しずつ政宗自身を痛いほど締め付けていた力が緩み、ゆっくりと動き始める。
「…く、…まだ、きついか…」
「ぁ…う、く…んんっ!」
引き抜かれる度に全てを持っていかれそうな感覚を味わいながら、幸村は政宗を受け入れる。
その痛みが、じわじわと甘く変わっていく。
「あ、……さ、ぅね、さ…ぁく…ふぅ…ん」
「…達けそうか、幸村…」
政宗も幸村の熱く柔らかいながらもきつい締め付けに翻弄されながら、
幸村の表情が次第に恍惚に染まっていくのを見つめていた。
「…っ、かりま、せ…ぁあ!…ま、さむね、さま…っ」
「幸村……ゆき、むら…っ」
政宗は幸村の声に一層掻きたてられながら、己自身を際まで引き抜き深く奥まで突き刺した。
それと同時に欲望が幸村の中を満たし、幸村もぱたぱたと白濁を零して果てた。
ふと幸村が目を覚ますと、まだ辺りは暗く夜明けまでは遠そうだった。
体が重く身を起こせそうにはない。何故だろうと考えかけて政宗との事を思い出し、顔が紅潮した。
傍らを見れば政宗が穏やかな顔で眠っている。
(………こうして、素顔を拝見するのは、初めてだな)
眼帯もつけず、あどけない表情で眠る姿はあの時見せた『大人の男』からは想像もつかない。
「……政宗、様…」
その名を呼ぶだけで、甘く疼くような痛みが胸の内を走る。
幸村は夜が明けるまでもう少しだけ、と言い聞かせながら政宗に密かに擦り寄り、この僅かな幸福に身を沈めた。
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