床の軋む音が耳を掠めて政宗は咥えていた煙管を煙草盆に叩き付けた。

++指先と口元 <戦国版BASARAダテサナ>++

障子が僅かな音を立てて開かれると、小十郎が座しているのが視界の端に飛び込んでくる。そしてその奥に、政宗が誰よりも逢いたかった人物がいることにも気付いていた。
「政宗様、お連れしました」
「入りな。…小十郎、判ってるな?」
「……承知しております」
此処に連れてこいと言う前に散々政宗に言われていた所為か、小十郎は若干渋面を浮かべながら、自分の後ろに控えていた人物だけを中へ押しやった。
その本人はといえば、少しうろたえながら背中を押されるまま部屋へと入り、背後で戸を閉められてしまえば其処はたった二人だけの空間になる。

政宗にしてみれば、待望のとき。

目をやれば、癖のある柔らかな髪が俯いた顔を隠してしまっていて、政宗は目を細めた。
「……遅かったな」
「申し訳ありませぬ。此処に来る前に使いに出されておりましたゆえ…」
「アンタがletter寄越してから何日待ったと思う?」
「……その…真に申し訳のう…」
俯いたまま、一向に顔をあげようとしないその恋人に、政宗は苛立ちを隠せず、下げたばかりの煙草盆を引き寄せた。
ちらりと顔を上げたのに気付きながらも、政宗はそのまま煙管を口に運ぶ。すう、と一息吸えば独特の香りが流れ込んできた。
その様子をさも驚いた顔で見つめていた恋人はそのままの顔でぽつりと口を開いた。
「……珍しゅう、ござるな…」
政宗が口に運ぶ様をぼんやりと見つめているその姿に、多少のからかいをこめて、吸いかけの煙管を差し出しながら、政宗は声をかける。
「…吸うか?」
「……いえ…某、煙管は…」
「吸えねえのか?…残念だな、間接kissが出来ると思ったのによ」
「な…!…ま、政宗殿!!」
「Ha…ちっとしたjokeだろ?それとも、間接kissじゃもの足りねえか?」
「お、お戯れも大概になさってくだされ…!」
ころころと変わる表情を愉しみながら、政宗はようやく煙管を口から離した。
「それにしても、珍しゅうござるな…政宗殿が煙管を吸われておるというのも…」
それを見計らったように声を掛けてきた幸村に、ちらりと視線を投げると政宗はニィ、と人の悪い笑みを浮かべて己の唇を指先で撫ぜた。
「………アンタが、いつまでも来ねぇから口寂しくてな」
「な…っ…!」
「アンタが来るまでにどれほど吸ったか…あぁ、灰が山になっちまってるぜ…」
「…なら、他にも何かございますでしょう…!」
「これが一番手軽なんだよ」
カンっ!と音を立てて灰受けに灰を落とし、また政宗は新しい煙草を詰める。
その仕草をじぃっと見つめたままの客に、政宗はまるで見せ付けるようにゆっくりと、殊更優美に見えるようにそれを口に運ぶ。
思惑通り、政宗の仕草に目を奪われたままの恋人に含み笑いが止められないまま、最後のひと吸いを愉しむとそれよりも魅力的なモノに手を伸ばした。
引き寄せられるのを拒まず、政宗の腕の中に転がり込んだ幸村は目を伏せると、鼻腔を擽ったいつもの政宗の香の中に煙草の香りが混じり、少し顔を顰めた。
「…政宗殿の香りが…」
「what…?」
「……いつもと、違って…別人のようでござる…」
「厭か?」
「………厭で、ござる…」
ふるりと小さく首を横に振るcuteな恋人に、愛しさが込み上げ政宗はその想いを伝える為にその身体を横たえそっと耳に唇を寄せると囁いた。
「Ha…なら、アンタの移り香で掻き消えちまえば、noproblemだ…」