++雷光 <現代版BASARAダテサナ>++

午後から崩れだした空は、帰宅する学生たちを狙うかのように立ち込めた暗雲から大粒の雨を降らせた。
激しく降り注ぐ雨粒に強かに打たれながら、鞄を濡らさないようにと抱え込んで家路を急いでいたのは帰宅途中の幸。
ばしゃばしゃと水たまりを踏みつけて跳ね上げながら、マンションのホールに辿り着くと頭を振り長く伸びた髪のひと房をきゅっと絞った。
「…べしょべしょでござる…」
自分の全身を見下ろし、ぺったりと貼りついた服に気持ち悪さを覚えながら自宅のドアを開けた。

シャワーを浴び着替えが済んだ幸がリビングに出てくると、雨足は更に強まり遠くから雷鳴も聞こえ始めていた。
「…雷…?」
窓の側に寄って外を見れば、遠くの雲間で稲光が走った。
まだ遠いそれに幸はほっとして、踵を返したその時。
眩いまでの光と体に響くほどの轟音がしたと思うと同時に部屋の明かりが突如として消えた。
「ッ…停電、でござるか…?」
慌てて電灯のスイッチを確かめに行くがやはり停電のようで、点く気配はなかった。
しかたなくソファに座って復旧するのを待っていると、再び雷が鳴り始める。
相当近いところに雷雲があるのか、光とほぼ同時に轟音が鳴った。
「……〜ッ!」
部屋中に響いたそれに幸は思わずソファに埋まるようにして蹲った。
この建物に落ちるはずはないとわかっていても、こうも激しくては不安も募るのだろう。
ぎゅっと手近にあったクッションを抱え込み、ただひたすらに鳴り止むのを待った。

5分もそうしていただろうか。
窓ガラスに叩きつけられる雨の音に混じって鍵が開く音が聞こえた気がして、幸は俯けていた顔を上げた。
しかしその後入ってくる気配がないために、気のせいかと再び蹲りかけると同時に激しい音がした。
どうやら近い場所に雷が落ちたようで、幸は思わず肩を跳ねさせてソファに埋もれた。
早く止んで欲しい、ただひたすらにそう願っていた。
「…幸…帰ってるか?」
かちゃん、という音と共に届いた声に幸はばっと顔を上げた。
「政宗殿…?」
「Ah…帰ってたんだな、安心した…Oh?!」
政宗が安堵の息をつく間もなく、幸はまるで飛びつくように走りよってしがみついた。
「お、おい…どうした、幸?」
ぎゅーっとしがみつかれた事を政宗は嬉しいと思うよりも先に、幸の尋常ならざる様子に動揺した。
宥めようと背中を撫で、極力優しげな声で話しかけても幸はふるふると小さく肩を震わせたままだった。
そうこうしていると再び稲光が暗い部屋を一瞬照らし、ほぼ同時に轟音が鳴り響いた。
びく!とあからさまに肩を竦め、政宗に回していた腕の力を強めた幸に、政宗は幸の怯えの原因にようやく行き着いた。
「…一人にしといて、悪かったな…あいつ等ももうちっと早く帰ってくりゃいいのにな…」
政宗の声に幸はふるふると首を振り、さらにぎゅっと抱きついた。
「……停電しなきゃ、まだましだったろうにな…怖かったろ?」
「…うぅ……」
むぎゅーっとしがみついて離れない幸に、こっそりと笑みを浮かべて政宗はその体をしっかりと抱きしめた。