「片倉殿!」
いったい
「片倉殿ー!!!」
何がどうして
「かたくらどのぉぉぉっ!!」
こうなってしまったのか
「くぅぁたくるぁ、どのぉぉぉぉっ!!!」
「喧しい!!」
…どうか、政宗様に見つかりませぬように…。
+++ストロベリー <現代版BASARA幸村+小十郎>+++++++++
パタパタと軽い足音が斜め後ろから聞こえている。
赤茶けたくせっ毛。長く伸びた襟足が風に揺れている。
……なんで見つかってしまったのか…。
人懐っこい笑顔を浮かべて、真田幸村―言わずもがな、政宗様の想い人だ―が俺に付きまとっている。
「…このようなお早い時間に外に居られるとは、外回りか何かでござるか?」
「……あぁ」
興味津々と言う目で俺をじっと見つめている。
…何かに似てる気がするんだが…、なんだったか…。
「社会人はやはり大変なのでござるな」
「………あぁ」
そんなこと、感心するようなことでもねえだろうが。
……なんだ、どこかで見たことがある気がするんだが…。
「某は先程学校が終わったばかりでして」
「…………あぁ」
だから制服のままなんだな…。寄り道か、いい身分だな…。
………思い出せんな…、喉元まで出掛かってる気がするんだが…。
「………聞いておられまするか?」
「聞いてなかったら返事なんざしねえだろ」
「そうでござるな!」
ぴたりと立ち止まり、俺の顔をじーっと見つめ上げる真田に、俺も流石に生返事ばかりではいかんと足を止めた。
…………おかげで忘れちまったじゃねえか…。
それよりも折角立ち止まったところで、俺はさっきから抱いていた疑念をぶつけるべく真田に向き直った。
「…で、なんでアンタがここにいる。ここはどう見てもオフィス街だろうが」
「え…あの……」
「…ワケありか?」
「………そうでござる…」
あからさまに狼狽してみせた真田に詰め寄ると、うぅ、と口ごもりながら『行きたい場所がある』と白状してみせた。
……前回よりも、こいつが憎い気がするのは何故だろうな…。
目の前の真田がニコニコとこれ以上の幸せはねえような面でメニューを眺めている。
俺はその幸せそうな面を刺すような目で睨むと、真田はまたもや、うぅ、と呻きメニューの影に顔を隠した。
「で、なんで俺を巻き込む」
「そ、某一人ではこのようなところ入れませぬ…!」
「だからって、成人男子二人で入るようなところでもねえだろうが…!」
「ついてってやると申されたのは片倉殿ではござりませぬか!」
ここが一体何処かというと。
周囲からはかしましい声が方々で上がり、部屋中甘ったるい匂いで包まれ、俺は今までにないほどの居心地の悪さを体感していた。
…最近出来たというイートイン併設のケーキ屋は、平日にも関わらず満席だった…。
………真田の甘味好きは本当だとは思いませんでしたぞ、政宗様…。
恨めしい目で睨みつけてくる真田の視線を真っ向から受け止めながら、俺は何も言えなかった。
「………」
「男に二言はござりませぬな!?」
「………さっさと選べ」
「はい!」
心底呆れ、ため息を吐きつつメニューを指差すと、真田は満面の笑みを浮かべて再度メニューと向き合った。
目の前に広げられた色とりどりのケーキに、見ているだけで胸焼けが起きそうだった。
珈琲を飲み干しつつ、信じられないものを見るような目で黙々とケーキを食べ続ける真田を見た。
「……よく、入るな」
「…ひょうへほはるふぁ?」
「…………飲み込んでから喋れ」
ハムスターのように口いっぱいにケーキを詰め込んだ真田に、深いため息を吐き、脱力感が抑えきれなかった…。
真田はこっくりと頷くと、結局ケーキを3個平らげた…。
「……満足したか」
「はい!美味しゅうございました。話題に上がっていただけございますな」
こいつの情報ソースが一体どこか、というのは聞いてはいけねえ気がする…。
「片倉殿!」
会計を済ませ、店を先に出ようとしていた俺の袖を掴み真田が引き止めた。
「……なんだ」
「その……某の我侭にお付き合い頂いて忝うござる。…感謝致しておりまする」
ぴょこん、と頭を下げたあと、にこやかに笑いかけられた。
………あぁ、そうか。
俺は何も言わず、ぽむと真田の頭に軽く手を載せた。
「……片倉殿?」
「…………好きなの、4つ選べ」
真田はぱちぱちと瞬くと、すぐにぱっと笑みを浮かべショーウインドウに駆け寄った。
手に提げたものをどうしようかと思いつつ、仕事場の前まで戻ってくると、丁度帰宅するのかビルから出てきた左近に遭遇した。
向こうも気がついたのか、相変わらず食えない笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
俺は手にしていた箱と左近を見比べて、にや、と笑うと近寄ってきた奴にすかさず押し付けた。
「お、小十郎じゃないか。…今まで外で仕事か?」
「……左近か…。……やる」
「は?お、おいこれ…?」
「俺は食わんからな、恋人とでも食え。傾けるなよ、崩れるからな」
「ちょ、待てよ、小十郎!」
俺が押し付けたケーキを手に追いかけてこようとする左近に背を向け、俺は政宗様の携帯を鳴らした。
『なんだ?』
「……真田は、犬っぽいですな」
『………what?!』
「政宗様のお気持ちが少しだけわかりましたよ、それでは」
『お、おい、小十郎、お前どういう意味だそれは!大体なんでお前の口からアイツの…』
ぶつり、と最後まで話を聞かず終話ボタンを押した。
「さて、暫くは退屈しなさそうだな」
楽しさに顔が緩むのを抑えられぬまま、俺はすでに静まり返っているだろうオフィスへ戻るために足を向けた。
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