ありがとうございました!
+++サンセット <現代版サコミツ>+++++++++++++++
「殿!」
校門を抜けた瞬間掛けられた声に思わず身が竦んだ。
すぐさま声がした方へ視線を向ければ車に身を凭せかけ、ひらひらと手を振る姿が飛び込んできた。
「……!!」
慌てて駆け寄り黙ってそのでかい図体を車に押し込めると、自分も助手席に飛び乗った。
「ちょ、殿、どうなされたんですか?」
「いいから早く出せ!」
そう言い捨てると俺は顔を俯け、極力人に、というよりも奴に見られぬようにしながら車がこの場から離れるのを願った。
キュ、と軽い音を発てて車が走りを止める。
ずっと俯けたままだった顔をあげると、夕映えの海が見えた。
「で、理由をお話いただけますかな?」
いつの間にか助手席側に回り、ドアを開けて覗き込んでいた左近の顔が間近に迫っていた。
差し出された手を断り、車外へ出ると潮風が髪を揺らした。
水平線を眺められる展望台。平日のこの時間では人気もなく、酷く静かだった。
かつん、と自分の背後で靴音が鳴ったが振り返らずゆるゆると沈み行く夕日を眺めていた。
「…殿。左近は殿にとって重荷ですか?」
「そんなことは…!!」
突然の言葉に動揺を取り繕うこともできずに振り返った。
その先に見えるは左近の笑顔。それから。
「そう言って頂けるだけで、左近は嬉しく思いますよ」
その言葉に、表情に、俺がどれほど心動かされるか。
お前がいることで、俺がどれだけ安堵を得るか。
そう思うと自然と体が動いた。
「…殿…?」
するりと骨張った頬を撫でると左近に身を預けた。
背中に腕を回せばこうするのが当然とばかりに左近の腕が俺の体を包む。
「……すまない、俺はいつも言葉が足りないな」
「殿のことは、この左近にはとても良くわかります故」
そうやって知らず俺を甘やかすんだな、お前は。
「……感謝している、左近」
おまけ。という名の蛇足。
「それで、何ゆえあんなにも早く学校から立ち去りたかったので?」
「………見つかると非常に話をややこしくする人間がいるんだ」
「へぇ…。それはまた、一度お会い…」
「左近!!そいつを甘く見るな、すでに俺の知り合いがやられているんだ。あのときの惨劇を俺は繰り返す気はないぞ…!」
「………殿がそこまでおっしゃられるなら、気をつけますが…」
「くれぐれも、近寄るな…!」
さて、ややこしくする人間って誰でしょうね(笑)。
2006/11/08 改題
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