夜毎擦り切れそうになる理性の糸を必死で紡ぎ合わせて、仄暗い欲望を抑え込んできた。 しかしこれもいったい何時まで保てるものか。 離し難い温もりからそっと身を離し、政宗は暖かな寝床を抜け出した。 **Between the sheet** まだ夜が明けきらぬ暗闇の中、ざぁっと水の流れる音がバスルームから響いている。磨りガラスの向こうには、この時期に浴びるにはそぐわない冷たい雫を頭から被り続けている政宗の姿があった。レバーに手を伸ばし、水を止めると水の滴る頭を振る。濡れて束になった髪の隙間から覗く眸は冷えた体とは裏腹に熱に揺らいでいた。深い溜息を溢しながらなるべく音を立てないように其処から出ると、エアコンの風が濡れた体に触れて体を冷やした。 「……ッ…」 流石に背を震わせ、政宗は手にしていたバスローブを肩に掛けた。 どうしてこんな真冬の明け方に、冷水を浴びているのか。事の発端はつい先日のこと。 念願(?)の広いベッドのおかげで悠々と眠れるようになったふたりではあったが、政宗には思いもよらぬ弊害をもたらした。 遠慮することがなくなったためか、幸が以前にも増して眠るときに寄り添うようになったこと。幸にしてみれば安心するのだろうが、政宗にしてみれば半ば生き地獄のような状態だった。 想い人が己の隣で無防備な姿で眠っている。最初のうちはその安らかな寝顔を見ているのもいいと思っていた政宗だったが、夜毎触れる温もりに次第に理性を削られていった。寝返りを打つたびにあがる小さな声も、政宗の耳を擽り胸中をかき乱す。酷いときは一度目が覚めると朝まで寝付けないことすらあった。 幸のあられもない姿を想像し己を慰めるなどしたくないと思いつつも、昂った体が治まるわけがなく何度となく虚しい思いをしていた。だからといって寝床を別にしようとすると、以前のこともあってだろう、幸がどうして?と縋るような目で見てくる上、政宗自身も手放せるわけがなく、結果このようなことになっているのだった。 起こさぬようにとそっとドアを開けて戻れば、じっと政宗を見つめる目線とぶつかった。 幸が身を起こし、ドアの先をじっと見つめていた。 「…起きてたのか?」 何もなかったかのように、作り笑いを貼り付け誤魔化しながらベッドに近づいても幸はじっと見つめるばかりで、何もいわなかった。政宗もそれ以上何も言わず、ベッドの端に腰を下ろして再び布団に潜り込もうとした、そのとき。 「………何も、話しては下さらぬのですか…?」 向けていた背中に添えられた手と、震えるような声に政宗は動きを止めた。振り向くことも声を上げることもできず、ただ時が過ぎるの待つように政宗はぴくりとも動かなかった。けれどそのまま事態が収束する事はなく、幸はその背中に身を預けて呟いた。 「…某では、やはり政宗殿のお側にいることは適わぬのですか…?」 政宗がしまったと後悔の念に襲われても既に遅く、幸はすっかりと思い違いをしてしまっていたのだった。 慌てて振り向けば身を預けていた幸が体勢を崩し、政宗の胸の中に転がりこんできたのを易々と受け止めて抱きしめる。政宗は腕から抜け出そうともがく幸を押さえつける様に腕を回してしっかりと包み込んだ。 「は、離してくだされ…!…某では、政宗殿と…」 「違う!…そうじゃねえんだ…」 「何が違うと…!毎夜抜け出されておったではありませぬか!」 拒むように腕をつっぱって叫んだ幸の言葉に政宗は驚いて、思わず腕の力を緩めてしまった。とん、と押されるように離れた二人の体。幸は眦にうっすらと涙を浮かべて政宗を睨み付けるような顔を向け、政宗は愕然としたままそれを見つめていた。 「…気づいてたのか、ずっと…?」 「……つい、最近でござる…。偶々目を覚ましたときに政宗殿がおられなかったので…」 思わずしゅん、とした顔をして俯いたまま、幸がぽつぽつと口を開く。 「横になったままお待ちしておりましたら戻ってこられたので、そのときは安心いたしましたが…。あの時、何をなさっておったのですか…あのように、冷えた体で戻られて……今日もでござる!」 ばっと勢いよく顔を上げると同時に眦に溜まっていた涙が散った。政宗は顔を顰め幸のことを思ってしたことがまったくの裏目に出ていたことをまざまざと思い知らされ、己の浅はかさに思わず唇を噛んだ。しかしその仕草を目にした幸はまた何かを勘違いしたのか、政宗に背を向けた。 「…某と共にいるのが厭であれば、そう、申して下されば…!」 「そうじゃねえ!俺は、アンタのことを思ってだな…!!」 「某のことを思うて下さるのでしたら、どうして側にいてくださらぬのでござるか…?!」 政宗はぎゅっと拳を握りしめ、必死で泣くのを堪えている幸の肩に手をかけ引き寄せた。そのまま腕の中に囲い込み抱きしめる。幸は腕の中から抜け出そうと暫くもがいていたが、やがて観念したかのように大人しくなり政宗にその身を預けた。暫くそのままでいたが、やがて政宗が小さく溜息を零すと、頭を幸村の肩に預けた。 「…俺は、アンタを傷つけたくねえんだよ…」 ぽそ、と呟やかれた言葉に幸は小首を傾げたのち、表情を曇らせた。 「共にいることが、良くないと申されるのでござるか…?」 「…そうとは言えねえ…けど、このままじゃ俺は絶対アンタを傷つけちまう…それは、厭なんだよ」 「どうして某が傷つくと…?」 「どうして、って…そりゃ…」 「いったい何を隠しておられるのですか…某には、話せぬことでござるか?」 腕を振り解いて政宗に向き直ると、その頬を両手で包み視線を合わせるが、政宗はふいと視線を逃がした。 「…聞いたら、引き返せねえかもしれないぜ?」 「聞かねばわからぬではありませぬか。戸惑われるなど…政宗殿らしくございませぬぞ?」 そういって心配そうな顔で覗き込んできた幸を政宗は呆気に取られたような顔で見返した。幸は何も言わないまま自分を見つめる政宗に、不安になったのか眉尻を下げて何事かを口にしようとしたが、しかしそれは叶わなかった。 「ん、んん…っ」 引き寄せられ、強く肩を押さえつけられたかと思うと、幸の唇は政宗のそれに塞がれていた。突然のことに驚いて身を竦めた幸をベッドに引き倒し、さらに深く唇を合わせてくる政宗を幸は無意識のうちに怖いと感じ、思わず押し返していた。 「…ッ…!」 はぁ、と荒げた吐息を吐いた幸は、目の前の政宗にまだ怯えの消えないままの眼差しを向け、それを受けた政宗は苦笑を浮かべた。 「だから言っただろ…俺は必ずアンタを傷つけちまうってな…」 政宗はゆっくりと身を起こし、圧し掛かっていた幸の上から退くと背を向けベッドの傍に腰を下ろした。 「あ…、そ、その今のは驚いて…!」 「隠すなよ。…アンタの目、怯えてたぜ…」 慌てて言い繕おうとする幸の言葉を遮る政宗にそれ以上言葉を続けることができず、それでも幸は違うと伝えたくて拒絶するような政宗の背中にそっと手を添えた。そっと躊躇いながら触れられた手のひらの温もりに政宗の肩がぴくりと震えた。 「…ま、さむね…どの…」 拒まれないことを確かめると幸はゆっくりと腕を回し、その背にぴたりと体を寄せた。広く温かな背に耳をつけると政宗の少し速い鼓動が伝わってきて、幸の鼓動もつられるように速まっていく。 言わなくては、そう思ってもどう伝えたらいいのかわからず、幸は苦しいような気分になって、回した腕にぎゅっと力をこめた。 「…無理、するなよ…」 政宗はそれをどう取ったのか、苦々しいような表情を浮かべてしっかと回されている幸の腕に指先を触れさせた。 「無理など、しておりませぬ…っ、しておられるのは…政宗殿のほうではござらぬか…!」 「俺は、アンタのためにだな…!」 「某とて、政宗殿を……好いておりまする…!」 幸の腕を解き振り向いた政宗の首に腕を回すと、まるでぶつかるような勢いで幸は唇を政宗のそれに重ねた。触れるだけの拙い口付け。それでも政宗は血が沸き立つような感じを触れた瞬間覚えた。耳まで羞恥に赤く染め、潤みがちな目でまるで睨むように見上げてくる幸を政宗はぎゅっと抱きしめた。 うろたえる幸の肩に頭を預け、政宗は耳元でささやく。 「…ま、政宗殿…?」 「後戻り、できねえけどいいのか…」 「……そのようなこと…する必要がございませぬよ…」 「…っ、ん…」 首筋を辿っていく唇に幸が肩を震わせる。鼻にかかった声が零れ、それが自分が上げた声だと気づくと頬をさっと染めた。政宗はそれに気付いて、知らず笑みを浮かべながら柔らかな皮膚に吸い付いた。 「ひゃ…ぁ…ッ」 ちく、と刺すような痛みにも似た感覚と共に、背筋を走ったものに幸は思わず声を上げた。はっとして口元を手で押さえ眺め下ろしてくる政宗を見上げれば、政宗は満足げな顔をしていた。 「…抑えちまうのか…?」 「う……は、恥ずかしいではござらぬか…」 赤くなった顔を背け、ぷくりと膨れてみせる幸を政宗は微笑ましく思いながら、夜着の裾から手を差し入れた。 「…っ、ん…」 冷たい指先が掠めるように皮膚を撫で上げていき、幸は肌を粟立たせては小刻みに震えた。ふるふると震える体を腕に抱きながら、政宗は必死で欲望を抑え付けていた。ともすれば、己の欲望のままに組み敷いてしまいそうになるのを、掻き集めた理性で堪えては、慣れない幸に少しずつ愛撫を施していく。 釦を外し、寛げた胸元に身を屈めて政宗が口付けを落とせば、「ひゃう」と小さな声を上げて幸がそれを見下ろして顔を赤くする。満足げな表情を浮かべながら、政宗は夏の名残が消えかけた肌を優しくなぞり、吸い付いた。ちくり、と小さな痛みを感じて幸が不思議そうな顔で政宗を見下ろす。政宗は紅く痕が残った肌を示すように舌先で其処を舐め上げた。 与えられる感覚に既に酔い始めたのか、ぽやんとした表情の幸がじっと自分の肌と政宗を見つめながら舌っ足らずに問いかける。 「……なん、でござる…それは…」 「ん…kissmarkだ…アンタが、俺のモノだって…印みてぇなもんか…」 「…それがしが、まさむね、どのの…」 「あぁ…俺も、幸のモノだからな」 与えられた答えと、思わぬ言葉に幸は少し驚いたように瞬きを繰り返すと、花が綻ぶように微笑んだ。それは、政宗が見惚れるほどに。 「嬉しゅう、ございまする…」 腕を伸ばして首に回されたかと思うと、政宗は幸にぎゅうっとしがみ付かれていた。さっきまでの恥ずかしさもどこかへ飛んでしまったのか、素肌が触れ合うことも気にせずぴったりと政宗に抱きつき、くすくすと嬉しそうに笑い続ける幸に、政宗もいつしか肩の力が抜けてしまっていた。 「…けど、まだこれからだぜ……これから、ちゃんとアンタを俺のモノに、いや…一つになるんだからな…」 「……まさむねどのと、ひとつに…?」 きょとん、と首を傾げる幸を抱きしめていた政宗の手が、背中をするすると撫で下ろして行ったかと思うと、夜着を掻い潜りするりと尻を撫でる。 「ひゃう!!」 驚いて声を上げた幸に構わず、政宗は双丘を押し開くとその奥の蕾にそっと触れた。 「や…っ、ま、政宗、殿…そんな、とこ…!」 「ここで、繋がるんだぜ……ちっと、いてぇかもしれないがな……だから、辞めるなら…今のうちだ…」 「…っ、ぅ…ず、ずるい…でござる……」 「ずるい、何がだ…?」 すっと手を退いて、あまりのことに震える幸の顔を見下ろせば、目を潤ませ、耳まで赤くなったそれが目の前にあった。それを隠すように幸は政宗の肩に顔を埋めた。 「…そのような言い方をされては……い、いやなど…言えませぬ…」 「……幸…いいのか…?」 まだ少し信じられない、と言った様子の政宗の口を、幸は目の前にある首筋にかぷりと噛み付くことで黙らせた。 「…ぁっ、んふ……やめぇ、あぁ…!」 息も絶え絶えに目の前の枕にしがみ付き、今まで自分でも触れたことのない場所を政宗に弄られる感覚に幸は必死で耐えていた。 潤滑油代わりのクリームを指に纏わせ、うつ伏せた幸の腰を抱えあげた政宗はごくりと息を呑んでその光景に見入りそうになりながら、ゆっくりとまだ固い蕾を解していった。 「ひぁ…!や、なに…?!」 幸が内壁を擦られている感覚に耐えていると、奥のある箇所に指先が触れた瞬間今まで感じたことのない快感が襲ってきた。 否応なく腰が震え、抑えようと思っても溢れてくる声に、幸は自分がどうにかなってしまうのかと不安に駆られて政宗を振り返った。視線に気付いた政宗は、幸の表情にどきりとしながらももう一度前立腺を指先で擦りあげた。 「…ぃ、や…!そこ…ひぁあ…っ…そ、れがし…おかし、く…」 「おかしくなんかねえよ…誰だって、ここ触られたらそうなるんだから…気持ちいいんだろ?」 びくびくと内壁が震えて指を包み込み、やわらかく融けていくのを感じて政宗は指をもう一本差し入れる。 「っ、い……!」 たちまち身体を固くして首を横に振る幸のペニスに手を絡め、政宗はゆっくりと指を動かす。痛みに縮こまりかけた其処は、さっきまでの刺激にしとどに濡れていた。 「…幸……もう少し、我慢してくれよな…」 背中に覆いかぶさり蕾を解しながら耳元で囁く政宗を、幸は濡れた視界で見上げてこくこくと何度も頷いた。 幸の健気な反応に、これから更に無理を強いることを知っている政宗は胸が苦しくなりそうになりながら、三本目の指を差し入れた。 「…っ、ん…ふぁ……あ、あぁ…」 もうすでに意識が霞かかってきた幸は、背中に触れる温もりと声だけをよすがに政宗を感じながら、必死で意識を手放すまいと耐えていた。 「……もう、いいか…」 「…ぅ…ひぁ…ぅ…」 指を引き抜かれ、抱えられていた腰が支えを失って崩れ折れる。荒く熱い吐息を吐きながら定まらない目線で見上げると、政宗は身に纏っていたものを全て脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になったところだった。 「……ぁ…」 あまり目にすることのない姿に、幸は虚ろな意識のままであっても見惚れてしまった。臍に触れそうなほど昂ぶった政宗のペニスを見ても、ほう、と熱い息が零れるばかりで。 見上げている幸に小さく苦笑を浮かべながら、政宗はその身体を仰向けさせ両の脚を肩に担ぎ上げた。途端、自分の全てを政宗に曝す姿になったことに、頬を染めて顔を背ける幸の髪を梳きながら、政宗は軽く口付けた。 「…痛かったら、言えよ…」 「大丈夫で、ござるよ…政宗殿の、ためなら…耐えられまする…」 そういって笑みを浮かべた幸が愛しくて、政宗はそっと抱きしめた。そのまま額にキスを落とすと、解れた蕾に張り詰めた自身を押し当てた。 「っ、う……!」 「息、吐け…ゆっくり……十分、やわらけぇから大丈夫だ…」 息を詰め、身体を固くした幸の気を逸らそうとペニスを扱きながら、ゆっくりと政宗は腰を突き出す。ぎちり、と音を立てそうなほどきつい蕾にじわじわと政宗の先端が押し込まれていく。 「…ぁ、はあ……ぅ、ふ…うぁ…」 ひゅう、と喉を鳴らしながら言われた通りの呼吸を繰り返す幸の身体から、力が抜けた瞬間を見計らいながら政宗のペニスが内壁を進んでいく。熱くきつい締め付けに、政宗は想像以上だと頭の片隅で思いながら、根元まで幸の中に埋め込んだ。 「ひぁん!!…ぅ、ぁ…」 「入ったぜ……ほら、アンタの中に…俺がいるのがわかるか…?」 「……ま、しゃ……あぁ…」 顔にかかる髪を鬱陶しくかきあげながら、政宗は軽く腰を揺すぶった。熱い楔に内壁を擦り上げられ、幸は喘ぎを零しつつも政宗を感じて小さく笑みを浮かべて頷いた。 その表情に耐え切れなくなった政宗は、幸の腰を抱えて、ゆっくりと自身を引き抜いていく。逃がすまいと絡みつく内壁に息を詰めながら、政宗は雁首まで引き抜いた自身をさっきよりも勢いよく再び突き入れる。 「あぁ…!ま、しゃ…ね…ぇ…」 びくん!と背中を逸らせてしがみ付いてくる幸を抱き寄せ、政宗は次第に突き入れる速度をあげ、さっき指で擦りあげた前立腺を先端で抉った。 「や…、あ、あぁ…だめ、れ…すぅ…!」 「…もう、痛く…ねえか…?」 「ん…っ、あ、あ…あぁう…っ」 ぐちぐちと濡れた音を立て、耳から、繋がりあった処から、幸を快楽の淵へと落としていく。政宗はぞくりと背中を奔る感覚に耐えながら、二人の間で擦られ濡れそぼっている幸のペニスに再び手を絡めた。 「ひぃ…や、さわ…ちゃ、…らめ、れぅる…」 「いいから…イっちまいな…」 倍加する快感に、頭の芯がもう溶けきってしまっている幸は、政宗に揺さぶられながら手を止めて欲しくてしがみ付いた。 しかし政宗は手を止めず更に追い詰めるように、涙を零している先端に指先を擦りつけた。 「ぃ、ああっ、あ…ま、さ……ましゃ、むね…どのぉ…っ」 「は…っ、幸……ゆ、き…!」 段々と早まる腰の動きを抑えることなど出来る術もなく、溺れるように幸に口付け政宗は快楽を上り詰めていく。幸はもうただただ政宗の動きに翻弄されるまま、声を上げ続け、とうとうその瞬間が来る。 「ぃ、ひ…あ、ぁあ…は、ぁああ…っ!!」 「……っ、く…ぅ…!」 ぎゅうっと内壁が窄まり、政宗のペニスをきつく締め付けながら幸自身も白濁を吹き上げて果てると、政宗も締め付けに耐えかねて幸の中に欲望の証を叩き付けた。 「…ぁ、つ…ぃ……」 「……ゆき…?」 びくびくと未だに内壁を震わせながら、何事かを呟いた幸の顔を覗きこんだときにはすでに幸は意識を手放していた。政宗はすっかりと力の抜けた幸の身体を抱きしめ、小さく耳元で「I love you」と呟いた。 目覚ましのアラームが微かに耳に届き、政宗は重たい瞼をこじ開けた。 身を起こしかけて腕にかかっている重みに気がつき、顔に笑みが浮かんだ。 温もりを求めるように寄り添いながら眠る幸の伏せられた瞼は、昨夜の名残が残ったままだった。 泣かせてしまうとはわかっていた、しかしあのまま止めることなどできずに、辛い思いをさせたのだろうと政宗は指先で赤みの残るそこをそっと撫ぜた。 「…ん、…ぅ…?」 眠りが浅くなっていたのか、幾度か撫でられているうちに幸がもぞもぞと身じろぎをしだした。 政宗は撫でていた手を止めると温かな体を抱きこみ、持ち上げられる瞼の奥の瞳に少しずつ光が戻っていくのを政宗はじっと見つめた。 「……ぁ、さむ……ぉ…?」 声を上げすぎた所為か寝起きのためか、掠れた声で名前を呼ぶ幸を抱き寄せて鼻先に軽く口付けると、くすぐったいのか身を竦めた。 「…っ、つ…」 その拍子に顔を顰めて呻きをあげた幸に、政宗がしまった、と苦々しい表情を浮かべる。 「やっぱり、酷くしちまったな…わりぃ」 「いえ……大丈夫でする……その、ひとつになった…証でござろう…?」 小さく笑うと、恥ずかしそうにシーツに隠れて呟いた幸に、政宗は一瞬呆気に取られ、思わず抱きしめた。 「ま、まさむね、どの…!」 走った痛みに体を強張らせながら、幸は羞恥から逃げ出そうともがいた。しかし政宗が許すはずもなく、しっかと全身を抱え込み笑みを浮かべた。 「…アンタには、かなわねえよ…心底、そう思うぜ…」 「それは、某の台詞でござる…政宗殿には、一生敵いませぬな…」 くくっと政宗が笑い出せば釣られるように幸も笑みを浮かべ、そのうちくすくすと笑い出す。朝のやわらかい光が差し込む部屋で、二人はいつまでも幸せに笑い続けていた。 -Back TEXT_TOP |
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