何がきっかけだったのか、今となっては分からない。
 その日は、信玄公からの親書を真田が届けに来ていた。内容は至ってsimple。昨今の情勢に関する話から始まり、最終的には同盟の話に流れていた。俺としても悪くはない話ではなかったのだが、すんなりとは受け入れがたい条件もちらほら見受けられた。もともと、人の下につくのは好きじゃないのもあった。  すぐに返事のできる内容ではないからしばらく待て、と小十郎にそれを投げ、それからはいつも通り、真田を引きとめ翌日の手合わせを約束すると丁重に持て成した。
 小十郎に小言を言われながらも自ら厨に立って、酒肴を作り晩酌に付き合わせた。アイツのために用意したのはいつもと同様の手製の甘味だったが。
 しかしその晩はいつもと少し違っていた。
 俺が作った肴が気に入ったのか、団子もしっかりと平らげた後でそれをつまみにちびちびと嘗めるように用意した酒を呑んでいた。俺もそれに付き合い、調子に乗って呑んでいたのは確かだ。
 ただ気付いたらその身体を引き寄せて唇を重ねていた。酷く甘い口付けだった。強かに酔っていたかと言えばそうかもしれないが、意識だけははっきりとしていた。
 逃げようとする身体を押さえつけ、半ば無理矢理に暴いた。
 人から与えられる快楽に慣れていないどころか、与えられること自体初めてらしい身体は、俺の動き一つ一つに過敏に反応するものだから、泣かせた。
『自分だけしか知らない姿』
 そう思うと酷く興奮して、さらに啼かせた。

 ほの暗い歓喜に心が躍ることの、
 理由になど、気付こうともしないまま。