憂鬱なテストが二週間後に迫っていたある日のこと。
 部室へ向かおうとする幸の背後へ音もなく忍び寄る影が一つ。がしっという擬音を自ら発しながら、それは幸の背中に飛びついた。
「ゆーきちゃん、もうすぐクリスマスだよー、伊達センセに何あげるか決めたかにゃ〜?」
「く、くのいち殿!…まだ、決めかねておりまする…政宗殿は何でも持っておられまするし、某、高いものなど買えませぬし…」
 よろめきはしなかったものの、女子に密着されるなどなれていない幸が慌てて振りほどこうとする仕草を見て、手馴れたものか、くのいちはするんと離れて傍の窓枠に軽々と腰を下ろした。
「ん〜、確かに伊達センセなら何でも買えちゃいそうだよねー、お坊ちゃんでしょ、案外。…女の子なら手作りもの…いやいや、最近は重いとか言われちゃうんだよねー、そういうの…むむむ」
 わざとらしい手付きで考え込むくのいちに、幸は眉をしょぼんと下げる。 「くのいち殿なら、何を贈りまする?」
 幸は今日、こうしてくのいちに問われるまでもなく、思い悩んでいた。  今までクリスマスというものをほとんど体験したことがなかった幸にはとても大切なことだったからだ。政宗とお互い恋人と呼べる関係になって初めてなのだからそれも当然と呼べるだろう。
 しかし経験の薄い幸には政宗に何を贈ってよいものかさっぱりと見当がつかないのだった。

 〜中略〜

 複雑な思いを抱えたまま、棒立ちになっていた幸は政宗に手を引かれてようやく我に返った。
「幸…こっちだ」
 促されるまま足を運んだ店内を眺めて幸は首を傾げた。自分がこんな場所へ連れてこられた理由や、さっきの人物のこと、そして此処に並べられているもの。どれも繋がらなかったからだった。しかし疑問を噛み砕いて消化しようとする間もなく、手を引かれるまま一番奥の部屋へと連れられて足を止めた。  政宗がドアを開いた部屋の中は、小さなテーブルの上に載せられたキャンドルの僅かな明かりだけが灯されていた。幸は不思議そうな表情を浮かべたまま、部屋にゆっくりと入っていく。
 テーブルの傍まで近づいた幸は、揺らめくキャンドルの明かりにぼんやりと浮かび上がる小さな何かを見つけて、それに手を伸ばした。天鵞絨の手触りがするその箱を手に取ると、背後からそっと政宗に抱きしめられ、幸は顔を上げる。
「…政宗殿、これは…」