+++Live with me? 〜君に。 その弐〜+++


「ふに…」
寝返りを打つと同時にするりと入り込んできた冷たい空気に、反射的に体を縮めて幸が布団に潜り込む。
その様子を政宗は傍らに座って笑みを浮かべて眺めていた。
穏やかに晴れ渡った、元日の朝。

てんやわんやで伊達の打った年越し蕎麦を食し、初詣を終えて戻ってくるとうつらうつらとしだした幸を抱えて眠りについたのは既に明け方近く。
当然、政宗が思うような展開になるはずもなく、幸は幸せそうな寝顔で夢の中へ。
それでも、新しい年を幸と迎えられたというだけで、政宗はずいぶんと満足していた。
「そろそろ、起こさねえとな…」
いつまでも寝かせておいてはせっかく用意したものが無駄になってしまう、と思いながら政宗はいまだ眠り続けている幸の肩をそっと揺さぶった。
「幸、もう朝だぜ…起きねえとアンタの楽しみにしてたもんがなくなっちまうぞ?」
「…ぅー…?」
「アンタのために手塩にかけて作ったんだぜ…食わねえのか?」
政宗の誘いにもそもそと寝返りを繰り返し起きようとしているようだが、寒さに布団から出てこれない幸を、苦笑を浮かべながら政宗は眺めて言葉を続ける。
「…出てこねえなら、3人だけで食っちまうか…あんなに旨そうに出来たのになぁ……雑煮…」
「…起きまする…!」
がばっと勢いよく布団を跳ね除けて幸が飛び起きた。くくっ、と笑っている政宗を目にして幸はむーっとにらみつけた。
「……もしや、謀られたのではありませぬな…?」
「まさか。雑煮はちゃんとアンタの分も保障するが、御節に関してはどうともいえねえなぁ」
大仰に肩を竦める政宗にちょっと恨めしいような視線を向けながら、幸はわたわたと着替えを始め、それを認めた政宗はベッドから腰を上げると、外して手にしたままだったエプロンを付け直してキッチンへと足を向けた。
「そんな焦るなよ。ちゃんとアンタの好物は用意してあるからな」
「あ、焦ってなどおりませぬ!」
しかしドアを閉めた途端、よろめいて転んだであろう音が聞こえたのはきっと政宗の空耳ではない…。

「幸は起きたか?」
声が発せられたほうへ顔を向けると、カウンターの向こうから伊達が政宗を見ていた。
差し出された取り皿を受け取りながら、政宗は苦笑いを浮かべる。
「あぁ…先に食っちまうぜ、って言ったら一発で起きたな…」
「相も変わらず食い意地の張った奴め」
「いいじゃねえか、作り甲斐があるだろ、俺もアンタも」
「…まあ、それもそうじゃがな…」
二人で笑いを堪えていると、パタパタと駆け出してきた幸が二人のいるカウンターに近づいてくる。
「まだ、食べておられませぬか…?!」
その必死な表情に二人は一瞬顔を見合わせると、思わず吹き出した。
くつくつと笑いを抑えきれない二人を、幸が不可思議なものを見るような目で見ていると、肩を叩かれて振り向いた。
背後には苦笑いを浮かべた幸村が立っていた。
「全員そろってないのに食べるわけないでしょう」
「兄上!…では、政宗殿はやはり謀られたのですな?!」
「アンタがなかなか起きてこねえからだろ?」
幸村の言葉を受け、はた、と気づいた幸はまだ笑いを収めきれない政宗に詰め寄ってぷくりと膨れながら文句を言うと、政宗はしれっとした顔で言い訳を返した。
その言い訳にむすりとした幸の跳ねたままの髪を撫でながら、政宗が笑いかける。
「…せっかくなんだ、全員揃ってがいいだろ?」
「そう、でござるが…でしたら普通に起こしてくださればよろしいものを…」
「…それで起きるならこんなこと言わねえって…」
ぼそ、と呟いた政宗の言葉につい、伊達と幸村が笑いを零してしまい、更に膨れた幸はぱたぱたと洗面所へと逃げ込んでしまった。
「さて…食いしん坊のためにさっさと用意するか…」
「ふん……甘い奴め」
「アンタに言われたくねえよ」
毒づきながらもどこか楽しそうな二人を、幸村は楽しげに眺めていた。

「………」
目の前に並んだ料理を幸は思わずほーっとした表情で見つめた。
いつもなら席に座ると同時に箸を取る幸がそんな状態だったものだから、他の三人はその幸に視線をつい集めてしまい、ようやく我に返った幸が振り返ると同時にあわてて箸を取った。
「これは…皆でお作りなられたのでござるか…?」
きらきらとした瞳を向けられ、三人は無言でほぼ同時に首を縦に振る。それを見て幸はぱっと笑顔を浮かべた。
「美味しそうでござるな…!実家のおせちもおいしゅうございましたが、こちらのほうがとても美味しそうに見えまする!」
「見えるだけじゃなくて、本当に旨いぜ」
「そうでしょうな…戴いてもよろしゅうござるか?」
「あぁ…好きなだけ食いな」
はたはたと振られる尻尾が見えるのではないかと思わんばかりの喜びぶりに政宗だけではなく、他の二人も笑みを隠せない。
幸の隣に座った幸村が取り皿に取り分けているのを今かいまかと待っていると、不意に幸の目の前に湯気が立ち上りふっと目線を落とした。
「アンタの食べたかったやつだ…味わって食えよ?」
朱塗りの椀を幸の目の前に置いた政宗が不敵に笑う。幸はうれしそうに頷くと、箸を取った。

はふ、と立ち上る湯気を吹いてお澄ましに浸った餅を箸先でそっと摘む。軽く焼かれた餅を口にした幸の顔がとても幸せそうな色を見せる。
「……旨いか?」
向かいに座っている政宗がその表情を目にして問いかけると、幸はふにゃと相好を崩して頷いた。それを見た政宗も微笑を浮かべて椀に口をつけた。


君にとって、この一年がいい年であるように。
君がずっと隣で笑っていてくれることを。

それだけをただひたすらに希おう。



いろんな意味でごめんなさい。
うん、あれだ、プロットを立てろということだな!(切腹)
そして休みのうちに書けということだな!!(割腹)
……次の予定はパラレル本編です、きっと、たぶん、そのうち…。
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