+++Live with me? 〜Nestle〜+++
「うにゅ…」
かわいらしい声を上げて、気持ちよさそうに眠る幸がころり、と寝返りを打った、と同時に。 「…ぅ?……わ…っ!」 「……幸?!」 びたーん!と床を震わせるほどの音をたてて、ベッドから転げ落ちた。 同じベッドで寝ていた政宗はもちろんのこと、別の部屋で寝ていた伊達と幸村も流石に気がつき、慌てて部屋を覗きにきた。 床の上に転がったままの幸と、それを引き起こそうとした政宗を認め、幸村と伊達は怪訝そうな表情で交互に二人を見やる。 「何事ですか?」 「…まさか貴様、…ベッドが狭いからと落としたわけではあるまいな…?」 剣呑な雰囲気を漂わせる伊達に、転がっていた幸が慌てて起き上がりふるふると首を横に振った。 「ち、違いまする!…あの、某の寝相が悪うござって…」 「いつの間にか腕から抜け出してんだよ、こいつ…」 すると政宗が背後から幸をぐいと抱き上げベッドに戻しながら言葉を繋ぐ。 「ぁぅ……し、しかし某を抱えられては寝にくいのではと…」 「アンタ抱いて寝てるとあったけえんだよ。たまに手が顔に当たったりはしてるけどな…」 「う…申し訳ござらん…」 「別にかまわねえよ。…で、アンタらはいつまでいるんだよ」 しょぼくれる幸を抱えなおし、再び寝転がろうとした政宗が、一向に戻ろうとしない伊達と幸村を睨み付ける。 伊達はその目線を容易く受け流し、幸へと顔を向ける。 きょとんとしたままの幸にふむ、と何かを思い当たると、伊達はニヤリと政宗に含みのある笑みを向けた。 「……ふん、もう出て行くわ。幸、危なくなったら自室で寝るようにせい」 「危なく、でござるか…?」 「てめぇらさっさと出てけ!」 伊達の言葉の意味を読み取れず幸が首を傾げていると、政宗が手元にあったクッションを掴みあげると同時に、伊達と幸村は部屋を辞し、投げられたそれは空しく扉に当たって落ちた。 思わぬ行動に呆気にとられていた幸は、政宗の腕の中で我に返ると顔をあげ扉を睨み付けている政宗に声をかけた。 「…政宗殿、危なくとは…?」 「いいから、もう少し寝とけ」 むすり、と不機嫌な顔をした政宗にそれ以上何も聞けず、幸は促されるまま横たわるとすぐさま眠りの淵へ落ちていった。 すっと潜り込んできた冷たい空気に政宗は目を覚ました。 腕にかかっていたの重みも消えていて、目を凝らすと抱えて寝ていたはずの幸はベッドの端で小さく丸まって眠っていた。 「…またこいつは…寒いっつったろうが…」 起こさぬように小声でぼやくと、そっと腕を伸ばし温かな体を引き寄せる。 触れた温もりにほう、と小さく安堵の息を零すと、幸も政宗の胸元に擦り寄ってきた。 「……むにゅ…」 幸せな顔で眠る幸の髪を梳き、政宗は知らず優しげな笑みを浮かべる。 しかしその表情はすぐに曇った。 「流石に…二人で寝るにはなぁ…」 政宗は一人ごちると懐深く幸を抱きこみ、再び瞼を閉じた。 翌日。 部活を終えて戻ってきた幸が自宅の前まで来ると、政宗が運送屋と思しき人物を見送っていて、幸の姿に気付くとひらひらと手を振ってきた。 「お、帰ってきたか」 「只今戻りましたでござる!」 「Ah…お帰り」 幸が駆け寄ると、政宗は酷く機嫌よさげに肩を抱いてきた。 何かいいことでもあったのだろうか、と幸が聞こうとすると、政宗は笑みを浮かべたまま幸を自室へと連れて行く。 何事かわからず、促されるまま連れて行かれたその部屋の中には。 「あ、あの…これは、一体なんでござるか…?」 「un?…何って、見ればわかるだろ。bedじゃねえか」 自慢げに話す政宗の指し示す先には、朝にはなかったはずのもの。 幸にしてみれば、テレビでしか見たことないような大きさのダブルベッド。 「そ、それくらいは見てわかりますが!」 「だったら何でそんなに怪訝そうな顔してんだよ」 「何でと申されましても…!」 幸が慌てふためいていると、買い物から戻ってきた伊達と幸村の二人が政宗の部屋に顔を出した。 「…何の騒ぎだ、これは…」 伊達が眉根を寄せながら政宗に小言を言おうとして、視界に入ってきたそれを認め、動きを止めた。 暫くの間、何事かを考え込んでいたと思うと、政宗に向き直り冷ややかな視線を向ける。 「貴様、これはどうした」 「…買った以外に何があるんだよ」 当然といわんばかりの態度で、政宗はやすやすと言い放ち、相対した伊達は呆れ切った様子で眉を顰めた。 「………寝言は寝ていわぬか」 「誰が寝言言ってるって?…これくらい安いもんだろうが」 「…貴様の金銭感覚にはついていけぬわ…」 はぁ、とあからさまについてゆけん、といった様子を見せた伊達に政宗は鼻で笑って返すと、幸に向き直り癖のある髪をくしゃりと撫でた。 「これで幸もゆったり寝られるだろ」 「…あ………某の、為でござるか…?」 政宗の言葉にぱちぱちと瞬きを繰り返すと、ベッドと政宗の顔を交互に見やった。 そんな幸の頭を撫でながら、政宗は優しく笑いかける。 「他にどんな理由があんだよ?」 「…政宗殿…ありがとうございまする!」 ぽふ!と勢いよく抱きついた幸を、受け止めた政宗は丹精な顔をだらしなく緩ませた。 「Oh!…そんなに喜ぶとは思わなかったぜ…」 ぐりぐりと身を擦り寄せる幸を、 夜の帳もすっかり落ちきった真夜中。 部屋の真ん中に据え置かれた大きなベッドの上で人影がゆらりとうごめく。 身を起こした影は、隣に眠る人影にそっと手を伸ばし触れる瞬間その動きをとめた。 伸ばした手を引き戻し身を横たえると、深いため息を溢す。 「………Heaven or Hell、か…」 僅かな音にも掻き消えそうな呟きは、横で安らかな寝息を立てる幸には届かず呟いた本人の耳にだけ届いた。 小さく声を上げ寝返りを打ち、擦り寄ってくる幸の姿に政宗は頭の芯がくらりと揺らぐような錯覚に陥り、軽く首を振った。 |